2007年3月27日

桝川千明リサイタルVOL.3レビュー

以前お知らせした、3/25桝川千明氏マンドリンリサイタルが開催、盛況のうちに終了!
日本屈指の若手実力派ギタリスト・金庸太さんとのデュオは本当に素晴らしかった。今回も一聴衆かつスタッフとして、裏舞台及びリサイタルのレビューをしてみたい。

当日は昼まで大雨であり、石川県に大地震もあったりして、なかなか大変な日であった。朝からホールに入り、金さんもいらして録音をかねて熱のこもったリハーサル。僕の方は主催してくださるIさん、お手伝いのS君、金さんのGF、Mさんとチラシ入れの作業、その後、当日の打ち合わせなど。いつものコンサートよりは余裕があった。

現代ギターさんの取材もあった。そして開場、多くのお客様にご来場いただいた。このすばらしきデュオの演奏、ぜひ楽しんでいただきたい・・・との思いをこめてお客様にご挨拶した。今回も全曲を客席で聞くことはできなかった。しかし、1部は客席で聞けたので、今回ご来場いただけなかった方のためにも1曲1曲についてコメントしてみたい。

スペイン奇想曲
やはりこういう完全に手の内に入ったイタリアオリジナルを冒頭に持ってくるのは正解。マンドリンも金さんのギターも、練りに練られた歌い込みと安定したテクニックで華麗に聞かせてくれる。
ほとんど名人芸。

ルーマニア民俗舞曲
最初の第1曲で鳥肌が立った!この曲、本当にマンドリンに合う。今回一番のダークホースかもしれない。リズムのもたれこみも絶妙。

タンゴの歴史
非常にかっこいい金さんと千明氏のタンゴ・・・今回は全4曲完奏。やはり、第2曲のしみじみとした「間」に泣けそうになる。3曲目も軽快なテンポで余裕を感じる演奏。ピアソラのメロディには、堕落していくようなやるせなく暗い魅力があるが、二人の演奏はこの魔味を十分に感じさせてくれた。いつまでも聴いていたい・・・いいコンサートに必ず感じるあの気分を感じた。

以上、1部は選曲のセンス・演奏ともに、3回目のリサイタルとして集大成にふさわしいものであった。
肝心の2部であるが、舞台転換のため残念ながらここからは舞台裏のモニターでの鑑賞となる。
客席での聞こえ方とはまったく違うのでレビューとはならないが、曲順に以下の通りである。

アステリスク
なんとも不思議で魅力的な響きを持つアステリスク。残響の豊かな白寿では有効な曲だが、モニターではフラジオレットの微妙な響きが伝わってこない・・・しかし、客席で聞けばこの玄妙な世界を十分に味わえたろう。

即興詩
邦人現代ソロマンドリン曲の白眉。恐ろしいほどのパワーとスピードで演奏された。ちょっと押しまくりすぎた感はあった。あまりの音量にスピーカーで増幅させているのでは?との質問があったが、無論生音で次世代機・落合SSがいよいよ鳴り出したのである。凄まじい最後のストロークに、客席からどよめきが・・・

プーナとカルージョ
フーガ第一番
金さんのソロステージ。プナカルはフォルクローレっぽくて一度聞いたら絶対に忘れられない曲。(CD:Varie2収録)即興詩の爆発的な音楽の後にこの柔らかい甘い響きはたまらなく官能的である。
それにしても指が何本あるのかわからない千手観音状態プリングオフの曲。ここだけ異次元の雰囲気、さすがである。

マンドリンとギターのためのソナタ
トリは再びデュオによるステージ。オリジナル曲として圧倒的な内容・規模・難易度をもつ「ソナタ」。はっきり言って奏者を選ぶ曲である。とにかくかっこいい曲だが見ただけで卒倒しそうなものすごい譜面。それをメカニック的にクリアした上で音楽的に表現する域に完全に踏み込んだ演奏であった・・・とはいえ実は最後のほう少し力尽きた感もあったが、最後はいったいどこに隠されていたかと思うような音の洪水でフィニッシュ。客席どよめく。

アンコール・中国の太鼓
前回もクライスラーを取り上げていて、僕は個人的にこの傾向をすごく気に入っているのだが、大曲ソナタの後でちょっと疲れたのかやや空回りの感があった。最高に良いリハテイクを聞いているだけに残念・・・。

2曲目のアンコールは金さん編曲のアリラン。これがまたマンドリンとギターに本当に合う。本日の2頭めのダークホースである。アリランは金さんのソウルミュージックなのであろう。子守唄のような切々とした歌に甘酸っぱい思いがこみ上げてくる。こんな曲を後2.3曲聴きたかった・・・

2部は少し辛口になってしまったが、舞台裏のモニターで聞いたので、もし客席で聞いていれば、もっとふくよかで広がりのあるすばらしい響きだったろう。

ただ個人的には、2部にもう少し柔らかい曲がほしかった。すべて現代曲でまとめるにしても、ちょっと粋でしゃれっ気のある曲が入るとコンサートはもっと素敵な空間になったと思うのだがどうだろう。リサイタルとは別にもっと肩の力を抜いて聞ける小粋なポップスコンサートなど是非聴いてみたい。
とはいえ、ストイックなマンドリン道の求道者としてあえてこのプログラムで挑んだのであればその勇気をたたえたいし、ひとつの道を究めれば、必ず本物を求める多くの人に支持されるだろう。

というわけで多くの人たちのご協力により今回もリサイタルはつつがなく終了した。退館時間が迫り、ご来場いただいたバッカスの皆さんにあまり挨拶できなかったのが心残りであった。

なんといっても惜しみなく練習の時間をたくさん取って、音楽面で導いてくださった金さん、主催のIさん、ご来場いただいた皆さん、本当にありがとうございました!!